契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「お姉ちゃん……」

 姉の言葉に渚は呟く。
 でも次の瞬間、

「なんの話をしているんだ」

と後ろから声をかけられてハッとして振り向いた。
 父龍太郎がリビングの入口に、訝しげに眉を寄せて立っていた。
 後ろにはこれまた難しい表情の和臣。
 渚の血の気が引いていく。
 なぜ父が今ここにいるのか、まったく見当もつかないけれど、とにかくまずい状況であることには間違いない。

「渚? 今の話はなんだ? 相手は千秋か?」

 言い訳を考える余地は与えないとばかりに龍太郎はキッチンにいる渚に歩み寄り、畳み掛けるように詰問する。
 当然ながら渚はなにも答えられなかった。

「千秋⁉︎」

 父が携帯を怒鳴りつける。
 だが千秋はなにも答えないまま携帯はすぐに切れた。
 龍太郎が再び渚をにらみつけた。
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