契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「ねぇ、お姉ちゃん」

 渚は魚を洗っていた手を一旦止めて姉を見た。

「なあに?」

 姉の千秋は亡くなった母に年々似てきたと渚は思う。母はいつも渚の料理を喜んでくれてた。もし渚が弁当屋をやりたいと言ったらきっと誰よりも応援してくれただろう。
 もう今はないその存在を目の前の姉の中に見つけて、渚はここのところ考えていたある計画を口にした。

「私さ、調理師の学校に行こうと思ってるんだよね。……できたら、次の四月から」

 たった二年社会人として働いただけでは、まだまだ甘ったれで世間知らずなのには変わりはない。
 それでも心境は大きく変化していた。
 二人を失った当時はモノクロに見えた世界は、一日一日をどうにかこうにか過ごすうちに、少しずつ少しずつ色がつき始めた。姉が結婚して、家を出たのは寂しかったが、義兄という新しい家族も増えた。
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