契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました

　優しい声でそう言って、和臣が渚を大きな腕で包み込む。そして少し申し訳なさそうにため息をついた。

「今日事務所で先生と一緒になってね。私たちの新居に行きたいと言われたんだ。それで……急遽。一応、渚にもメールはしたんだが、断りきれずこんなことになってしまって、申し訳ない」

　渚は彼の腕に抱かれたまま、ぶんぶんと首を振った。

「そんな……和臣さんのせいじゃありません！」

　渚はそのまま、彼の腕にしがみついて泣き続ける
　和臣が渚を包む腕にギュッと力を込めた。

「大丈夫、今は混乱していらっしゃるが、先生はけして話のわからない方ではない。落ち着いてきちんと話をすれば、わかってくださる。後は俺に任せて。渚は安心して勉強をつづけるんだ」

　では彼はまだ渚のために父への説得を続けるつもりなのだ。
　さっきの彼の真摯な言葉にも耳を貸さなかった父への説得を。
　渚は信じられない思いで彼を見上げた。

「そんな……！　もういいです、和臣さん。これ以上迷惑をかけられません！　父にはちゃんと私のせいだと話をして、私この家を出ます」