契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「可能性は無限大……か。瀬名君の言う通りだ。失敗しても挫折してもなんどでもやり直せばいい、その分強くなれと、わしはたくさんの若者に言ってきた。でも……」

 龍太郎はそこで言葉を切って、肩を落とす。そして小さく首を振った。

「でも……、でも、娘は、また別なのだよ……渚」

 その声はわずかに震えていた。

「お父さん……」

「お前も千秋も、父さんと母さんの大切な大切な宝物だ。少しも傷ついてほしくない。失敗も挫折も知らないで幸せな人生を歩んでもらいたい。……どうしてもそう思ってしまうんだよ……」

「お父さん……」

 いつも厳しかった父の本当の気持ちを目の当たりにして、渚の頬を熱い雫が伝う。
 少しだけかけちがっていた龍太郎の思いが、渚の胸に染み渡るように広がった。
 龍太郎が渚をジッと見つめた。

「瀬名君から聞いたよ。この半年、お前はよく頑張っとると。夜間の専門学校に通っとるんだな」

 流れる涙をそのままに、渚はこくんと頷いた。
 龍太郎がそれを確認してから立ち上がる、そして鞄から一枚の名刺を取り出した。
 渡されたそれを見て渚は驚いて目を見開いた。
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