契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「か、和臣さんのおか……おかげです」

 そう言うのが精一杯だ。
 広い背中に手を回し、しがみつくように彼のコートを握りしめて、渚は泣いた。
 大好きな人が、こんな風に自分のことを手放しで喜んでくれた。この瞬間をずっと覚えていようと渚は思う。そうすれば、この先どんなにつらいことがあってもきっと乗り越えてゆけるだろう。
 和臣がゆっくりと身を離し、渚の頬を大きな両手で包み込んだ。
「全部、渚の力だ。渚の熱意が、先生の心に届いたんだ。よく頑張ったな」
 力強い言葉と、頬の温もりが、渚を強くする。
 大丈夫。
 愛されていなくても、もうこれだけで前へ進める。
 至近距離にある彼の綺麗な瞳を見つめながら渚は覚悟を決めた。
 いよいよ、本当に別れる時がきた、と。
 でも渚がその言葉を口にしようとしたその時。
< 244 / 286 >

この作品をシェア

pagetop