契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 初めての口づけは、少ししょっぱい涙の味。その感触に、渚の身体は甘く痺れた。
 想像していたよりも遥かに柔らかいそれは、でもすぐに離れてゆく。
 名残惜しさに目を開くと、そこへ、もう一度。
 またすぐに離れて、もう一度。
 なにもかもが初めての渚を、導くように、慣らすように、和臣はゆっくりと短いキスを繰り返す。

「ん……」

 何度も何度も、優しく触れる彼の唇に、渚の脳がぴりりと痺れる。

「あ……」

 自然と漏れる渚の吐息に、和臣がわずかに微笑んだ。

「もっとほしい?」

 優しく尋ねられても、どうすればいいかわからない。
 この先は、いや今こうしていることさえも渚にとっては未知の世界なのだ。

「あ……わからない……」

 呟いて、少しぼんやりとしたまま彼の瞳を見つめ返せば、突如そこになにかが灯った。
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