契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 その先は、和臣の寝室だった。

「あ……」

 薄暗い中に浮かぶ大きなベッドを渚は直視できなかった。彼だけのためにあるはずのこの部屋に、ふたりでいることがどうしても信じられない。
 ゆっくりと、ベッドの上に下される。シーツは冷たいはずなのに、身体は燃えるように熱かった。
 大都会の夜景を背にした和臣が、やや乱暴な仕草でネクタイを外した。

「……怖い?」

 尋ねられても、すぐには答えることができない。
 どこか獰猛な空気をまとう和臣を、渚はただ言葉もなく見上げた。
 どう言えばいいんだろう。
 怖いと言えば、その通りだった。
 でもそれだけじゃないなにかが渚の心を支配している。
 獲物に食らいつく直前の、肉食獣のような飢えた光を湛える彼の瞳に、魅入られたように目を逸らせない。
< 263 / 286 >

この作品をシェア

pagetop