契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「だ、大丈夫です……」

 やっぱり現実のこととは思えない。
 和臣が、少し申し訳なさそうに眉を寄せた。

「渚は初めてだったのに、無理をさせたな、ごめん。渚がちょっと強がってるってことは、わかっていたんだ。だから、なるべく怖くないようにゆっくりするつもりだったんだけど、でも途中から……」

「だ、大丈夫! 大丈夫ですから!」

 渚はぶんぶんと首を振って、和臣の口にストップをかける。
 朝日が差し込むこんなに明るいこの部屋で、昨夜の出来事を口走られてはたまらない。
 和臣が「そう?」とやや安心したように言って、口を閉じたので、渚はほっと息を吐いた。
 でも実際、昨夜の和臣はただひたすら優しかったと渚は思う。
 未知の出来事にいちいち戸惑い身体を強張らせる渚を、根気よく導き優しく励まして、その瞬間まで連れていってくれた。
 怖いことも、無理なことも、なにひとつ起こらない、幸せな幸せな体験だった。
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