契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 髪を整えながら見上げると、彼は少し困ったように微笑んでいる。
 そして目を細めて渚を見つめた。

「きっとあの時、あのラウンジで事務所で見るのとはまったく違う渚の素顔を見た瞬間に、俺は恋に落ちたんだろう」

 渚の胸がきゅんと鳴る。
 そんなバカなと思うけれど、目の前の彼が嘘をついているようには思えない。
 嬉しくて幸せで胸がいっぱいだ。
 一方で、これ以上ないくらいロマンティックな言葉を口にしたはずの張本人は、またため息をついて、心底まいったといったような声を出した。

「まったく、敵わないよ渚には。危なっかしくて、目を離したらなにをするかわからない。放っておくわけにいかないじゃないか。そうやって目で追っているうちに、いつのまにかもう……」

 和臣は、苦笑しながら、"困った、まいった、やられた"と繰り返す。
 なんだか愛の告白とはかけ離れているような言葉の数々に、渚は頭から煙を出した。

「な、な、な、なんですか、それ!」

 まるではめられたとでもいうような和臣の言い分に渚は頬を膨らませる。
 でも和臣はやめなかった。
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