契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「お見合いはしたくないわ。お父さん」

 渚はもう一度はっきりと言う。
 一方で龍太郎の方は渚の反応にさほど驚いた様子はない。ただ少しだけ考えてから、

「どうしてか、わけを言いなさい」

と言った。
 その言葉に渚の心に迷いが生まれる。
 今ここで本当のことを言ってしまおうか。
 お父さん、私、やっぱりおばあちゃんのお弁当屋を継ぎたいの、そのために専門学校へ行きたいから、結婚なんてしてる暇はないのと。
 でも父の険しい顔を見ているうちに、それは得策ではないなという気分になった。すでにご立腹なところにそんな絶対に反対されるような話を出したりしたら、通る話も通らなくなりそうだ。
 ここは一旦、お見合いの話を回避することだけに全力を注ごうと心に決めて渚は口を開いた。

「だって私まだ社会人になって二年しかたっていないのよ。もっともっと世間のことを知りたいわ。仕事だってまだまだ未熟だし……」

 だが出てきた言葉はつまらないありきたりなものだった。
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