契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 渚は唖然としながらも、父の問いかけにとりあえずこくんと頷いた。
 佐々木総合法律事務所に所属する弁護士は皆優秀で信頼できる。
 龍太郎が一瞬満足そうに微笑んで、でもすぐに渋い顔になった。

「彼も結婚自体する気はありませんなんて言っとるが、もう三十も過ぎたんだ。そういうわけにはいかんだろう。男は、所帯を持ってこそ責任感が生まれるというものだ」

 その言葉を聞いてようやく渚にも相手が誰だか察しがついた。
 音川だ。
 結婚はしないなんて公言しているのは事務所内に彼しかいない。
 お父さんったら……と渚は心の中でため息をついた。父が前々から音川の独身主義を苦々しく思っていたのは知っている。だからって、娘と結婚させようだなんて。
 でもそれを聞いて幾分安堵したのも事実だった。
 上司から自分の娘と見合いを勧められるなど一歩間違えばパワハラ案件になりかねないと渚は密かに心配したが、音川なら問題ないだろう。
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