契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 そう言って渚は瀬名から目を逸らす。なんていい加減な親子だと再び呆れられただろうと思いながら。
 だが意外にも、瀬名はぷっと吹き出して、くっくっと肩を揺らして笑い出した。

「相手の名前も聞き流しちゃったのか。そうか」

 その様子に、ちょうどコーヒーを運んできた女性店員が彼に視線を奪われている。
 なるほど、こうやって間近で見ると、確かに誰かがテレビで言っていた通り、少年のような無邪気な笑顔がすごく素敵だと渚は思った。
 普段の彼は、頼りがいのあるがっしりとした身体つきに甘いマスクが印象的な抱擁力のある大人の男性だから、尚更そう感じるのかもしれない。
 不覚にも渚の胸がドキンと跳ねて頬が熱くなる。
 渚は目の前のコーヒーをひと口飲んで、アイスコーヒーにすればよかったかなと思った。
 なんだか少し身体が熱い。
 でもどうして彼が笑っているのか、理由についてはさっぱりわからなかった。
 渚が小さく首を傾げると、瀬名がわけを話し始めた。

「いや、意外だなぁと思って。佐々木さん大人しそうなのに、お父様のことそんな風に言うんだね」
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