契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 まだおかしそうに目を細めたままの瀬名が言う。
 それは当然の感想だと渚は思った。
 なにせ、仕事中の渚はなるべく無駄口は叩かずに、目立たないように過ごしている。側からみれば真面目のひと言だろう。しかも親が経営する事務所で働いているのだから、父親の言いなりなのだと思われても仕方がない。

「でもじゃあ、なんで音川さんだと思ったんだ? あの人結婚する気ないだろう? 見合い話も片っ端から断ってるはずだ」

 瀬名の問いかけに渚は少し考えてから口を開いた。

「父がそう言ったんですよ。あいつは結婚する気がないって言うけど、するべきだって。それに信頼できる弁護士だって言ったから、私てっきり…」

 でもそこまで言いかけて、瀬名が腕を組んでソファに身を沈めたのを見て言葉を切る。そして慌てて付け加えた。

「あ、もちろん、信頼できる弁護士だっていうのは瀬名先生にも当てはまると思います。いや、瀬名先生の方が……ですよね。でも私先生が独身主義だなんて、知らなかったですから……」

 あたふたと言い訳をする渚に、瀬名が再びおかしそうに微笑んでいる。
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