契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 突然瀬名に褒められて渚はソファから飛び上がるほど驚いてしまった。
 素敵だなんて、男の人から言われるのは初めてだった。
 でもすぐに相手はあの瀬名なのだ、と思い直し、心を落ち着けようと試みる。華やかな世界の住人である瀬名にとってはこのくらい挨拶みたいなものなのだ、と自分に言い聞かせながら。

「あの、べつにそういうわけではありません。このワンピースも姉から借りたものなので。お見合いの相手が音川先生でなくてがっかりだったっていうのはその通りでしたけど……」

 そうなのだ。
 見合いの相手が音川ではなかった時点で渚の計画は泡となって消えたのだ。
 比較的気心の知れた音川ならいざ知らず、じっくり話をするのも初めな相手、瀬名には到底お願いできる話ではないのだから。
 その残念な思いが頭をよぎり思わず口にした渚の言葉を、瀬名は別の方向から捉えたようだった。

「へぇ」

と呟いて意外そうに渚を見た。

「君、音川さんが好きなんだ」

 その指摘に、渚は一瞬ハッとなって、すぐに首をぶんぶんと振った。

「あ! ち、違います! そうじゃありません」

 だが否定をした渚に、まったく納得した風でもなく、瀬名は少し眉を上げてソファに身を沈める。その瞳は、疑わしげに渚を見つめていた。
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