契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 弁護士としての自分にとっては親にも等しい存在である佐々木龍太郎、その人を、まさか欺くようなことになるなんて……。
 和臣は自分のデスクに戻り、黒い椅子に腰を下ろした。
 やっかいなことになってしまった、というのが正直なところだった。
 龍太郎から見合いの話を受けた瞬間は、なんともいえない複雑な気分だった。
 それほど自分は信頼されているのだという喜びと、だからといって娘との結婚までは……という戸惑い。
 いや娘の渚に不満があったわけではない。和臣自身が結婚自体に興味を持てなかったからだ。
 会うだけ会って気に食わなければ断ってくれていい、それで私の君への見方が変わることは一切ないと言った龍太郎の言葉は信じられるものだった。
 誠実に対応し、誠実に断ればなんの問題もない話だったはずなのに……。

 俺はいったいどうしてしまったんだ?

 窓の外の夜の街を見つめて和臣は深い深いため息をつく。
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