契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「それにしても気に食わないわ、あの子」

 明らかに敵意の混ざる言葉が耳に入り、廊下にいた渚はハッとして足を止めた。

「お高く留まってるよね。あなたたちと私は違うのよって考えてるのが丸わかり。ほんと目障り」

 声は女子トイレから聞こえてくる。
 声の主は愛美を含む先輩事務員たちだった。と、いうことは今彼女たちが話をしている対象が、自分のことだというのも容易に察しがついた。
 時刻は午後六時半。もう定時を過ぎたから、佐々木総合法律事務所の面々も皆それぞれの仕事を終えて帰宅の準備を始めている。
 渚はというと、昼間の大量の書類はどうにかこうにか終わらせたものの、思ったより時間がかかってしまったため、他の仕事がずれ込んで、今日は久しぶりに残業になりそうだった。
 愛美たちは定時過ぎてすぐに帰ったから、もうとっくに事務所内にいないものと思っていたけれど、まだトイレにいたようだ。朝に今日は久しぶりの合コンだと騒いでいたから、メイクを直しているのかもしれない。

「せっかく瀬名先生が誘ってくれてるのにさ、なにあれ」

「お弁当がありまーすなんて言って。家庭的な女アピール?」
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