契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
『私、和臣が弁護士になるのを楽しみにしてたのに』

 実家が落ち着いたらまた司法試験を目指すつもりだ、必ず弁護士になると、話をする気にもなれないくらいにあっさりと。
 だが当時は冷たいと感じたその彼女の反応は、おそらく世間一般の感覚と大きくズレていたわけではないだろう。
 司法試験に合格した頃を境にまた多くの女性から声をかけられるようになったのだから。
 それ以来和臣は、どこかでいつも自分に近寄る女性たちに懐疑的な気持ちを抱いてしまっている。
 結婚なんてもっての他だった。
 それでも割り切って、楽しむ分にはなんの問題もない話だった。
 女性の中にだって和臣のように結婚願望がない者もいるのだから、そういう相手を慎重に見極めて。
 そういう意味で、この女優は和臣にとって興味を惹かれる存在だった。少なくとも今のところは、彼女の言動からは、結婚を望んでいるという空気は感じない。
 であるならば、これから徐々に距離を詰めていこうか、そう思っていたというのに。
< 96 / 286 >

この作品をシェア

pagetop