その一瞬を駆け抜けろ!

前屈ストレッチ中のわたしのそばに
沢田さんの気配を感じたが、
思わぬ行動で、抗議の悲鳴をあげた。


沢田さんは、わたしの背中を押し、
ストレッチの負荷をかけ始めたのだ。

「薫ちゃん、調子どう?」
と声をかけられたが、返事どころじゃない。


「あ“ーっ、いーっ!!いったーい!
イデデデ…っ、痛い、痛いです、沢田さん!!

ギブギブっ!イデデデ…」と上体を起こし

と、わたしは、足をさすりながら、

「もーっ、なんなんですか、いきなり…」

というと、

「あははっ!体はね、しなやかで、
柔らかいほうが怪我しにくいからさ、

負荷かけてあげたんだよ!で、調子、どうよ?」

と笑いながら言われた。

なんだか悔しくてわたしも負けじと

「いまのストレッチで、絶不調ですよ…」

と軽く返事をしながら

「実際、いままでと少し意識を変えて
練習してみてるんですけどね…

自分では、
明確な変化がわからないというか…

ちょっと自信ないですね…」

と歯切れの悪い返事をした。

すると沢田さんは、

「そう?
今日、走ってみたらわかると思うけど、
走り方、変わってきてるよ?
必死さが、伝わってくる…っていうか…

ごめん、うまいこと言えてないな…」

と頭をかきながら言った。
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