その一瞬を駆け抜けろ!
少し呼吸がととのってきたところで
咲と一緒にフィールド内の芝生へ移動し、
ゴロンと仰向けに
手足を大きくな広げて寝転がった。
5月の雲一つない真っ青な空を見ながら、
「はぁ…久しぶりにベスト出たなぁ…」
と呟くと隣で同じく寝転がっている
咲が
「ここんとこ、頑張ってたからね…薫…」
「でも…辛かったー…はぁ…つかれたぁ…」
「そりゃ、みんなそんなもんよ?
走り終わって、爽快!とか
余裕あるひとなんていないっしょ?」
なんてやり取りをしていると、
人の影で、
わたしの目の前の視界が遮られた。
上から見下ろされているので、
相手の顔が逆光で見えづらい。
すると
「薫ちゃん、お疲れさま…どうだった?記録」
と声をかけられ、沢田さんだと気がついた。
いまの格好がみっともないと自覚しつつも、
「…あっ…沢田さん…?
すみません、こんな格好で……」
と言いつつ、記録用紙を渡すと、
すぐさま彼は、わたしのタイムを確認し、
「おぉ!すごいじゃん、
これ、2本目がベストだよな?
走り方も勇ましい感じがしたよ、2本目」
といわれたので、わたしは、
上半身を起こしながら、ようやく座ると、
「いやぁ…うら若き女子高生に
『勇ましい』は、ないですよねー」
というと、沢田は笑いながら
「いやぁ、悪い悪い!力強かった、よ?」
と言い直す。すると隣で聞いてた咲が
「…沢田さん…それも無しですね…」
と苦笑しながら、ツッコんだ。
「いやぁ、でも辛かったです…走ってて、
こんな疲れたの、初めてかもしれないです…」
というと
沢田さんは、
「うん、2本目とも必死さが、
伝わってきた、
良かったと思うよ?かっこよかった!」
と言い、わたしの肩をポンッと叩くと
嬉しそうな表情でまた他の部員の計測に、
戻っていった。
すると咲が
「やっぱ、沢田さん、かっこいいね…
特に、薫に目をかけてくれてる感じがするなぁー。」
わたしは、「そう?」と短く返事をすると、
「そうだよー!まさか薫、気づいてないのー?
練習もマンツーマンになること多いし、
いまだって、ほら!
走り方まで、見ててくれたんだよ?
気づいてないの?
キャーっ!無自覚って恐ろしいー!」
と咲は、ひとりで盛り上がっていたが、
わたし自身、あまり思い当たるフシがない。
あれで優しいって言えるのかな…?
わたしには厳しいようにしか思えない。