その一瞬を駆け抜けろ!

そこへ
自分のレースが終わった咲がやってきて

「薫、緊張した?ちょっと見てたけど、
体に力が入ってたでしょ?ほら、肩にも!」

と声をかけてきた。

「うん・・・ちょっとマズかったね・・
スタートブロックに足を置いたら、

足がプルプル震えちゃってさ・・・
最初、思うように体が動かなかったよ」

と、わたしはヘラッと笑って見せた。

「でも、もう大丈夫・・
ちょっと背中叩いて、気合入れてくんない?」

と咲に頼むと

「いいよ!いくよ!
ほらっ!準決、頑張れーー!!!」

と言いながら、咲は、わたしの背中の中心を
手のひらで「バシッ」と思い切り叩いた。

それを近くで見ていた後輩たちの中には
公平の姿もあり、

「うわっ!いま良い音したねー!
痛くないのかな…」と目を丸くした。

「おっし!気合入った!もう一本頑張ってくる!」
と言い残し、わたしはまた、アップに向かった。


すると後輩たちからは

「・・・・うわぁ・・・」

「あのやり取り・・カッコいい・・・」

「惚れちゃうね・・・」

と口々に零した。

それから部内では、レース前に気合を入れたり
緊張をときほぐす時に、背中を一発「バシッ」
と叩きあうのが恒例となった。
< 25 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop