その一瞬を駆け抜けろ!
逃げ足だけは、速いと自負してたんだけどな…
さすが瞬足揃いの陸上部。
新入生対象の部活説明会の翌日から、
毎日、先輩方に代わる代わる追いかけ回され、
必死に勧誘されて根負けして、入部した。
部員は、男女合わせて30人程。
運動部ならではの上下関係もないに等しく
呼称も『先輩』付けを強要されず、
早々に、あだ名が決められたり、
名前で呼ばれたり、
部内はフレンドリーな雰囲気で溢れていた。
この雰囲気が気に入り、
わたしを入部の道へと誘った。
顧問は
黒田、通称クロセン、50代前半の体育教師で
陸上経験者だったが、専門がフィールドだったので、
短距離や長距離の練習は、OB、OGが見てくれていた。
その中でも3歳年上のOBの【沢田 純也】は、
わたしを含め、みんなの憧れの的だった。
現役に混じり、一緒に走るその姿は、
長身で足にバネがあり、腕の振り、足の運びかた、
すべてが綺麗に連動し、現役部員たちを魅了した。
でも…それは飽くまで『憧れ』であり、
彼には、3年生の中に彼女がいた。
いつも練習が終わると彼女と一緒に自転車に乗り、
家まで送る彼。
部内公認のカップルは、他にもいたが2人は、
みんな憧れのまなざしで眺めるだけで、
誰一人としてその関係を崩してやろ、
なんて無謀な人はいなかったはずだ。