その一瞬を駆け抜けろ!
スタンドから応援していた部員たちは、
涙がこぼれのを必死に堪えていた。
あんなに勇ましくて、どこか痛々しい
薫の姿を初めて目の当たりにし、
胸が締め付けられていた。
が、
競技場から薫の姿が見えなくなると
皆、我に返り「ヤバい…」
「いま薫ちゃんを一人にしちゃ駄目な気がする」
「探しに行こうよ」
と言い始め、我に返った。
咲も、
こぼれた涙の跡をグイッと拭きながら
ベンチコートを抱えた。
そして薫を探しに行こうとしたとき
横からすっと手が伸びてきて、
「咲ちゃん、貸して、俺が行く」と言い
沢田が咲からベンチコートを取り上げた。