その一瞬を駆け抜けろ!

すると
彼女から少し遅れて、息を切らしながら、
ガタイのいい、陸上部の男子が走ってきた。

彼は、
俺の前で手に膝をつき、前かがみになりると
校門の方へ視線を向け、

『はぁ…はぁ…』と呼吸を整え、

『あぁ…また…逃げられた……』と、
悔しそうに小さな声で呟いた。

「どうしたんだ?」と聞くと

彼は、顔だけをこちらに向け、

「あぁ…サワさん…

おつかれさまっす…はぁ…はぁ…」

「くっそぉー逃げらた…」と言う。

「あぁ、彼女、いま勧誘してる子?」
と、彼の視線を追いながら聞くと


「そうなんすっよ…

投擲をやってる俺なんかに彼女を
捕まえられるはずがないんっすけどね、

みんな交代で追いかけてて…」

と悔しそうに言う。

「サワさん、ここにいたなら、彼女を
捕まえてといてくださいよー」

と、じとーっとした視線で訴えられた。

「いやいや、俺もいまさっきクロセンから
その話、聞いたばっかりだからね?」

と反論すると、

小さくため息をつかれ、

「そうだったんですかー、じゃあ仕方ないっすねー。

俺にもサワさんの足があれば、捕まえられたのになー。

明日こそ誰か捕まえられれば、いいんですけどね…」

と彼は、諦めて部室に入っていった。


『陸上部相手に追いかけっこをする彼女』
それが第一印象だった。
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