その一瞬を駆け抜けろ!
薫、高校3年生になる
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そうして高校生活と部活を両立しながら、
わたしも3年になり、高校生活最後の春休みが
やってきた。
ある日の練習後、何気なしに
「薫ちゃん、このあとちょっといい?」
と、少し緊張感のある声で沢田さんに、
呼び止められた。
わたしは、その声色から、
小さな違和感を感じつつ、緊張しながら
みんなの輪から少し離れたところで
恐る恐る沢田さんの様子をうかがいながら、
「お疲れ様です・・・」と声をかけた。
「あぁ・・・お疲れ様。ごめんね、
薫ちゃんとちょっと話したいことあって・・・」
と、
沢田さんに切り出され、緊張がピークに
達すると、わたしに返事をさせる間もなく
「薫ちゃん、いつまでそのスタイル突き通すの?
まさかこのままで良いと思ってないよね?
今年で高校生活、最後だよ?分かってる?」
と話し出した。
わたしは、いきなり何のことを言われ、
指摘されたのかわからず、
少し考えながら、首を傾げてしまった。
すると沢田さんの黒目の奥が鋭さを増し、
「…薫ちゃん。その2番でも3番でも良い、
ってスタイル?モチベーション?もうやめようよ。
……見ててイライラする」
イライラする…かぁ…
じわじわとわたしの中に入ってくる言葉たち。
胸にグサグサと槍で突き刺すような感覚に
陥った。
わたしの頭の中は『イライラする』と
言う言葉で頭を打ち抜かれ、心はズタズタ、
ただただ呆然とした。
「。。。えっ。。。あの。。。」
と、ようやく言葉を発してみるものの
さらに混乱するばかり。
わたしが黙っているとさらに沢田さんは、
追い打ちをかけてくる。
「本当は、
もっと上を目指せるのにズルいよね、
練習では手を抜かないのに、本番になると
ゴール手間の5mで力を抜くでしょ?
最後の3歩、流すよね?」
「えっ?えっと・・・沢田さん?」
「誰も気付いてないと思ったでしょ?
俺は、ずっと気づいてたよ。なに?
何か怖いの?1位になるの怖いの?
薫ちゃん自身、それが自然になってるのかも
しれないけど、それってライバルにも失礼だし
一緒に練習して、応援してくれてる仲間たちにも
失礼なことだと思うよ?・・・わかってる?」
と言われたんだ。