その一瞬を駆け抜けろ!
沢田と薫の距離
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俺は、
薫を焚き付けたときから覚悟をしていた。
もし彼女が壊れそうになったら、
全て受け止めよう。
八つ当たりでもいい、なんでもいい、
彼女の全てを受け止めると決めていた。
決勝レースが終わって、いまにも泡となって
消えてしまいそうな薫を見たとき、
胸をぐっと鷲掴みにされた感覚に陥り、
すぐに動き出せなかった。
周りにいた部員たちも、
たぶん同じ思いだったに違いない。
だが、
最初に俺が彼女のもとへ行かなければと
いう思いに駆られ、
咲ちゃんが持っていたベンチコートを奪うと
我を忘れて探し回った。
すると全く人気のない木陰に姿を隠すように
背中を丸めて座っている薫の姿を見つけた。
まるで背中の羽が傷だらけになってしまった
痛々しい薫の姿。
薫を見つけられたことへの安堵感と
切ない背中に
俺は思わず後ろから抱きしめた。