その一瞬を駆け抜けろ!
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わたしは、背中にかけられたベンチコートと
沢田さんの存在に少し驚きながら、不思議と
気持ちがすーっと落ち着いていくのがわかった。
しばらくすると、沢田さんがわたしの横に
座り、背中を撫でてくれていた。
「わたし、負けました…」
と、ようやくわたしが言葉を発すると
沢田さんは、
「いや、負けてないでしょ・・・
薫ちゃんは、自分に打ち勝ったと思うよ」
というので、
わたしは沢田さんの意図してることが
全く理解できず、やけに腹が立ってきて、
「さっき見てましたよね?
結果、見ましたよね?
わたし、負けたんですよ?
1位になれなかったんです!!
なんなんですか?打ち勝ったってなんですか?
同情ですか?」と言っている間に、
さらに怒りがこみ上げてきた。
「あんなに頑張っても、あんなに苦しくても
結局、2位だったじゃないですか!
なのに負けてないなんて…
簡単に言わないでくださいよ!」
と叫ぶように訴えると、自分でも分かるくらいに
顔を歪ませながら、次々と涙がこぼれてきた。
「もとはといえば、沢田さんが
あんなこというから…あんなこといわなければ、
今までだって楽しく走れてたのに…いま辛いよ…
苦しいよ…」
と言い、顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き、
沢田さんに訴えた。