その一瞬を駆け抜けろ!
「驚いて、涙が止まったね」と、言うと、
薫は、やけに素直に「はい…」と、
ようやく答えたが、
頭は、真っ白という表情をしていた。
俺は、薫に視線を向けながら
「薫ちゃん、俺は同情もしてないし、
気休めを言ったわけじゃない。
さっきのタイム、みた?」
というと、薫は視線を彷徨わせ、呟くように
「順位しかみてないです…」
と答える。やっぱりな・・・と心の中で呟くと
「薫ちゃん、またベストタイム、出したんだよ。
十分やりきったじゃん。すっげぇかっこよかった!
だから俺は、負けてないって言ったんだよ。
俺さ、自分の事のように嬉しかったよ、薫ちゃん。
胸張っていいと思う、自信もって。
薫ちゃんは、
この先、何があっても乗り越えられる力がある。
辛かった分だけ強くなれる」と伝えると
薫は、知らなかった情報を聞かされ、
少し驚き、俺を見つめると、また目頭に
涙をためていた。
思っていたより、彼女は儚くて泣き虫だ・・・。