その一瞬を駆け抜けろ!

俺はもう観念するしかない、と思ったが、

まだ俺も中途半端な立場で・・・などと、
ごちゃごちゃいろんな言い訳めいたことが、
次々と思い浮かぶ。

少しづつ整理しながら、彼女に話そう。

「俺も今日の薫ちゃんのレースをみて、
すごく刺激もらった。ありがとう。

薫ちゃんをたきつけた時から、
全て受け止めるつもりでいたんだけど、
不意打ちで、薫ちゃんの可愛い泣き顔を見たら、
自分の気持ちが溢れてきちゃって、
止められなかった。愛おしくなっちゃった。

でもそれだけじゃ、俺もだめだよな。
薫ちゃんの隣に胸を張って立てるような
男になる。

もう少し待っててほしい、
必ず結果出してくるから。

俺を信じて待っててくれないかな?
たびたび俺のワガママを押し付けるようで

・・・申し訳ない…」

と薫に真摯に向き合い、頭を下げた。


彼女は、そんな俺の姿にそれ以上、
追及してこなかったが、少し怒っていた。

あまりに俺の都合ばかりだと気づいたのか、
全く納得していない様子だった。

すると怒りの視線とともに

「沢田さんってズルいですね!
見損ないました。わたし、待ちませんよ?

人のファーストキス、奪うだけ奪っといて
『待ってて』だなんて、よくそんな都合いいこと、
言えますね?

わたし、沢田さんにすぐ追いつきますよ、
いや、むしろ追い越しますから!」

と声たかだかに宣言し、俺の手を解放した。
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