その一瞬を駆け抜けろ!
「そうだよ!怒っていいとこ!」
と咲に言われ、少し冷静さを取り戻すと
「思えばいままで、こういう話って
あまりしてなかったね、わたしたち」
というと
「そうだね…陸上って、基本、個人競技だしさ、
『自分との戦い』ってイメージが強いからね、
ひとりひとりが、どんな目標を持って
どんな気持ちで大会に望んでるかなんて、
よくわからないよね…」
「うん…なんか今回は沢田さんに
明確な課題を突きつけられた感じがする…」
と、二人の中でも答えが見つかるような
気がしたが、わたしは、ここまできたら、
明確な答えが欲しくなり、
「…咲…わたし、明日の練習休むわ」というと
「…えっ?えっ?薫が休むなんて珍しくない?
いや、もしかして初めてじゃない?
雪が降っても練習しようとしてた薫が・・・」
と、咲は動揺した。
「うん…あんなに入部を渋ってた割に、
意外とまじめだったでしょ、わたし・・」
と苦笑いしながら言うと、
「そうだよね…ねぇ…薫?その…大丈夫…?
このまま辞めたりしないよね?」
と咲は、心配そうな表情に変えて、
聞いてきた。
わたしの中には『辞める=逃げる』
ということが頭に全くなかったので
「…あぁ、それは大丈夫。
ここまで来たらやり抜くよ。
ちゃんと明後日、また部活出るからさ、
そしたら一緒にまた走ろう?」というと
咲も少しホッとした表情になり
「それなら良かったぁ…
明後日、わたし、待ってるからね!」
と約束し、明るい表情に戻り、部室を出た。