おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
「愛している、リサ」
苦しいほどの抱擁に包まれ、リサは目眩がするような幸せを噛みしめる。その腕の中の温かさに涙が滲みそうになるが、リサはハッと我に返る。
ここは城の謁見の間で、公爵やシルヴィア姫もいるのだ。
まだ何も問題は解決していない。
その証拠に、公爵は呆気にとられた表情でこちらを見ている。
今更ながら公爵やシルヴィアの前で何ということを。リサは羞恥で顔から火が出る思いだった。
慌ててジルベールの腕から抜け出すと、ここまで何も言葉を発しないシルヴィアを振り返る。
彼女の傍らには、いつの間にかジルベールの従者であるローランの姿。彼はシルヴィアの肩を抱き、ぎゅっと自分の方に抱き寄せた。
「心配しないで、リサ嬢。シルヴィアは僕が必ず幸せにするから」
相変わらず穏やかに微笑むローランと、そんな彼の言葉に嬉しそうに上目遣いで見つめ、頬を染めるシルヴィア。
何がなんだか理解が出来ない。
従者のローランが、シルヴィアを幸せに…?
「待ちなさい、一体どういうことだね?!」
リサと同じく、この状況が全く理解出来ないレスピナード公爵の困惑した声が謁見の間に響いた。