おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
◇◇◇
「…み、君、大丈夫か?」
温かい風に頬を撫でられた気がして、瞼は下りたままぼんやりと意識が覚醒しだす。
視界が暗く閉ざされているせいで嗅覚が研ぎ澄まされているのか、ふわりと柑橘系のいい香りが鼻孔を擽った。
「おい、気が付いたか?」
誰かに肩を揺すられて起こされる。
(そうだ。確か部屋の荷造りの途中で絵本を読み初めて、そのまま眠ってしまったんだ…)
片手で目頭を押さえ、ゆっくりと起き上がろうと力を入れる。
すると声を掛けてきた人物が支えてくれているらしく、ふわりと身体を起こすことが出来た。
「起き上がって大丈夫か?」
心配げな声に聞き覚えがなく、内心首を傾げながらゆっくりと目を開ける。
俯いていた梨沙の視界に飛び込んできたのは、自分の着ているメイド服。
着納めだとクリーニングに出す前に最後に部屋で着たのだと思い出し、羞恥に顔が染まる。
カフェでバイトしているとは話してあるけど、メイド喫茶だと勘付いている職員はいないだろう。
こんな格好を施設の人に見られるだなんて。さすがにこの格好では言い訳のしようがない。