おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
「あ、あの…」
梨沙は自分を支えてくれる人をゆっくりと見上げ、ひゅっと息を呑んだ。
人間、本当に驚くと言葉も叫びも出ないというのは本当らしい。
陽の光を浴びてキラキラと眩しいほどに輝く金色の髪に、深緑色をした瞳が印象的な、恐ろしく顔の整った男性が自分を見下ろしていた。
起き抜けに近過ぎる距離にいる人物に全く見覚えがなく、咄嗟のことに恐怖よりも困惑が強く頭を支配する。
必死に今の状況を理解しようと試みても、何から考えたらいいのか見当もつかず呆然とする他ない。
恐る恐る視線だけを横に移すと、ここはあきらかに梨沙の部屋ではない。それどころか室内ですらない。
身体の横に手をついた感触は施設のフローリングでも部屋のベッドでもなく、芝生のような柔らかな草。
ロボットのようにぎこちなく周りを見渡すと、抜けるような青空と辺り一面の草原。
「……え?」
ようやく口をついて出た言葉は、そんな意味をなさない感嘆詞のみ。
梨沙の瞳に映る景色には周りに建物らしきものも見えず、見渡す限り空の青と草の緑。奥にはわずかに雪を残した山岳が見える。