おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
梨沙はそう自分を奮い立たせ、なんとか心の中で思っていることをゆっくりと丁寧に言葉に乗せいていく。
「それは…お金はあるに越したことはありませんが、たくさんはいりません」
施設で育った梨沙が唯一覚えている母の顔は、寂しそうな笑顔だった。
未婚で梨沙を産んだ母は、きっと一人で大変な思いをしただろう。お金がたくさんあったらもう少し長生き出来たのかもしれない。
それでも…、きっとお金よりも支えてくれる家族が欲しかったんじゃないかと思うのは、あの寂しそうな笑顔が頭から離れないから。
「毎日平和で健康で、お互いだけを愛し合っている人が側にいる。私だけの家族。私はお金より、そっちのほうが大切に思えます」
寝る前に絵本を読んだせいか、そんな理想を語ってしまっていた。
ジルベールが驚いたように目を見開いているのを見て、梨沙は急に我に返って恥ずかしくなった。
(夢の中とはいえ、初対面の男の人に何の話をしているんだろう、私…。)
ひとり頭を抱えたくなるが、でもそれは急に彼が側室とか正妃だとかよくわからないことを言い出すからだと頭の中でジルベールに責任転嫁をしつつ、今度は梨沙から彼に質問をすることにした。