おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

「じゃあ、あの…あなたは?」
「え?」
「これから城へ芝居をしに行くのでしょう?」

城というのがよくわからないが、さっきから王子や側室という単語が飛び交っているくらいだ。きっと王様だっているのだろうと梨沙は思った。

「芝居をして、王様に気に入られて『褒美をとらせよう』みたいなことになったら…。あなたは何を望むんですか?」



――――――君が欲しい。


ジルベールが思わず零した呟きは、馬車のガタガタと揺れる大きな音で掻き消され梨沙には届かなかった。

(何を言っているんだ、俺は)

その直後すぐに表情を圧し殺し口元を押さえたが、自分でも思っても見なかった感情に胸の奥が支配され、戸惑いが徐々に膨らんでいく。

女性に対し苦手意識を持っているジルベールは、今目の前にいる梨沙のような考え方をする女がいるとは思わず、強く興味を引かれた。

愛らしい顔立ちで強かに計画を練り、あの場で王子が乗る馬車が来るのを今か今かと待っていたのだと思っていた。メイドという立場でありながら、仕えるべき主人の花婿に取り入ろうとしているのだと思った。女性とは可憐さの裏側にそうした狡猾な思考を巡らせているものだと。

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