おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
「え、え…?!」
「きのうの話、私は納得していないわ!絶対出ていくなんてダメなんだから!」
何がなんだかわからないけど、梨沙はある疑問を解消しようと、抱きついてきた美少女に呼びかけてみた。
「あ、あの…シルヴィア姫?」
梨沙の首に腕を回していた彼女は、その呼びかけ方がよほど可笑しかったのか、クスクスと笑いながら顔を見合わせた。
「やだ、リサ。何を改まった呼び方をしているの?」
「や、あの…」
「私はあなたが出ていくなんて嫌。リサは私の侍女で友達で家族よ。姫だなんて呼ばないで」
―――――予感は的中した。
彼女はシルヴィア姫。
梨沙が大好きな絵本『私だけの王子様』に出てくるお姫様。
(きっとこの夢は、眠る直前まで読んでいた絵本の世界なんだ…)
このお城も絵本に出てきた。
きっとこの石畳を下った先には、清く澄んだ小さな川に掛かる眼鏡のような形をした橋があるに違いない。
「ねぇリサ、私とってもいいことを思いついたのよ!」
「…いいこと?」
聞き返しつつ、梨沙はこのあと彼女が何を言い出すのかを知っている。
自分にとんでもない提案をしてくるだろうとわかっている。
だって今、自分は『日比谷 梨沙』ではない。
シルヴィア=レスピナード様の侍女、リサ=レスピリアなんだから。