おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

リサもここで働いていたんだろうかと他人事のように思いつつ、なぜか頭の奥の方で『リネン庫の整理の手伝いを頼まれてたんだった』と考えるも自分もいる。

絵本ではお城の中の様子はこんなに詳しく描かれてはいない。我ながらよく出来た夢だと感心してしまう。


なんとか運良く誰にも会わずに城内の探検を終え、外から別棟に戻ろうと中庭に出た。

色とりどりの花々が左右対称に美しく整えられた中庭は、下段の方は水の庭園になっていて大きな噴水や池がある。
上段のはずれには篝火(かがりび)で照らされた小さなバラ園があり、夜風に乗って甘い香りが漂ってくる。

そこにひとり佇む男性の後ろ姿が見えた。
それが昼間梨沙をこの城まで送ってくれた彼だとわかった瞬間、梨沙の心臓は大きく跳ね、呼吸が浅くなる。

彼は確か芝居を打ちに来たと言っていたはずだ。

梨沙の足音が聞こえたのか、振り返った肩越しに視線が絡む。吸い寄せられるように魅力的な存在感に目が離せなくなった。

「君は…」

現実の梨沙なら、軽くぺこっと会釈だけしてその場から立ち去っていたかもしれない。

(でもこれは夢の中だし…)

心の中で誰にともなく言い訳をして、自分から話しかけてみる。


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