おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

8畳ほどの自分の部屋を見回してため息をついた。

勉強机とベッド、小さなクローゼットには半透明の衣装ケースが4つ箪笥代わりに重なって置かれている。ベッドの隣にはいくつかダンボールが積み上がっていて、まさに荷造りの真っ最中という様相だ。

1メートルほどあるラックには、先日卒業した高校の制服と、2年弱務めたバイト先の制服が並んで掛けられている。

「これもクリーニング出さなきゃ」

ハンガーごと手にとったのは、真っ黒なワンピース。
袖は丸く膨らんだ半袖で袖口だけ白い。ウエストは身体のラインが出るように細身に作られていて、スカート部分は大きく広がるサーキュラー型になっている。

さらに肩紐と腰にフリルが付いている真っ白なエプロンドレス。
これを重ねて着れば、立派なメイドの完成だ。


日比谷梨沙(ひびや りさ)は高校2年の4月から先週までの約2年間、メイド喫茶で働いていた。

いわゆる『おかえりなさいませ、ご主人さま』というやつだ。

可愛いメイド服が着たかったわけでも、オタクの聖地と呼ばれる場所が好きだったわけでもない。
ただただ高額な時給に惹かれて働き出した。

梨沙は両親の顔をほぼ知らずに育った。
母親は未婚で梨沙を産み、彼女が3歳の頃に亡くなった。
身寄りがなかった母親を失った梨沙は、児童養護施設に引き取られ今日まで生活してきた。

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