おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
「わ、すごい…!」
目の前の光景に思わず小さな感嘆の声が出た。
リサがジルベールと朝早くに城を抜け出し、石畳を下って清く澄んだ小さな川に掛かる眼鏡のような形をした橋を渡った先にある城下町。
フランスのマルシェのように色とりどりのテントが軒を連ね、果物やパン、お菓子や肉料理などの食べ物を扱う店から、食器類や家の手入れに使う道具を扱う店。さらにドレスやワンピースを仕立てるための反物屋、靴屋、帽子屋、アクセサリー屋、それから花屋まで、石畳の道の両脇に所狭しと店が並んでいる。
昨日馬車で通った道ではあるものの、リサは終始下を向いていたためこの辺りの景色を見ていなかった。それゆえ初めて見る光景に圧倒される。
今まで現実の世界でも海外旅行の経験がない"梨沙"は、こうした活気ある朝市を見るのはテレビの中くらい。
しかしやはり頭の片隅のどこかに"リサ"の記憶があるおかげで、初めて見る景色のはずなのに、どの店が新鮮な果物を置いていて、どの店が自分の好みの雑貨を置いているのか、なんとなくわかるのだった。
ふとリサの目に、たくさんのキラキラしたアクセサリーや雑貨が並ぶ店が映った。ここはいつも行っていたと記憶の彼方にある雑貨屋で、実際この店で買った商品が城のリサの部屋にはいくつかある。
あまりアクセサリーに興味がなかったリサだが、トップ部分に小さな赤い石を埋め込んだ華奢な指輪が視界に入った。
赤はラヴァンディエ王国の紋章の色。故にジルベールが正装として着ていた軍服も赤だった。