おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
ジルベールは自分が居場所になるという言葉をくれただけでなく『側にいて欲しい』『側にいる』とまで言ってくれた。
嬉しくてその胸に飛び込んでしまいたいのに、絵本のストーリーと違ってしまっていることが気がかりだった。
俯いたままなんとももどかしい思いを抱えているリサの右手を取ったジルベールが、ポケットからおもむろに取り出したものを彼女の指にするりと滑らせた。
驚いて顔を上げたリサの薬指には、今朝雑貨屋で見ていたトップに小さな赤い石の埋め込まれた指輪がはまっている。
「ジル…、これ、どうして」
「これが気に入っていたんだろう?」
飲み物を買いに走った時、ジルベールはリサが見ていた雑貨屋にも足を伸ばした。
彼女が手にとった指輪は、王子でなくとも意中の妙齢の女性に贈るにはあまりにも安いもの。
ジルベールがリサに指輪を贈るのなら、宝飾商を呼んで最上の石を付けたものや、職人にリサの名やラヴァンディエの紋章を彫らせたものでも、何でも用意することが出来た。
しかしジルベールはそのおもちゃのような指輪を購入した。リサなら喜んでくれるのではないかと思ったのだ。
自分の薬指に収まった赤い石の指輪をじっと見つめ、みるみるうちに瞳から涙が溢れていく。
必死に嗚咽を堪え、下唇を噛みしめる。そんなリサの様子を見て、ジルベールは堪らずに彼女を掻き抱いた。
「ジル…うれしい。ありがとうございます」
抱きしめられた腕の中で、リサは溢れる感謝の気持ちをどう伝えらたいいのかわからなかった。
ありがとうと言葉にするだけでは足りない。
まさか自分が少し気にかけただけの指輪を覚えてくれていて、それをこうしてプレゼントしてくれるとは。
値段など関係ない。指輪を貰ったという幸福感はもちろん、ちゃんと自分のことを見て考えてくれている、その彼の気持ちが切ないほどに嬉しかった。