おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~

「リサ。君はもっと甘えていい。自分の意見を言っていい」

ジルは今日出掛けている時に何度もリサの意思を聞きたがった。
優しさから自分の主張よりも相手の思いを先に尋ねるリサに、ジルベールはもどかしさと愛しさを同時に感じていた。

うまく甘えられないリサを、おもちゃのような指輪でこれだけ喜んでくれる彼女を、どうしたら甘やかしてやれるだろう。
女性に慣れていないジルベールには、何をしたら彼女が喜んでくれるのか皆目見当がつかない。

だからこそ、リサには言葉にして頼ってほしい。
ジルベールは右手を取り、誂えたようにぴったりとはまった指輪にキスを落とした。


「俺が、全部叶えてやる」


真剣な眼差しに射すくめられ、身動きが取れない。
前触れもなくやって来る緊張感に、リサの鼓動はこれ以上ないほど早く脈打っている。


――――――あなたと、一緒にいたい。


リサの望みは、それだけだった。

ジルベールがそっと近付くと炎の明かりが遮られ、薄い光に縁取られた彼の美しい顔に魅入られる。煌めいていた瞳が熱の籠もった深い色に変わるのを、リサは瞼を閉じる瞬間に見た気がした。

口付けを交わすふたりのそばで、篝火がパチパチと大きな音を立てて燃え盛っていた。





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