おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
花婿候補のジルベールをもてなす宴の3日目。
リサはシルヴィアのドレスを纏い、艶のある黒髪をすっぽりとブロンドのウィッグで覆った偽りの姿で、ジルベールと共に昼食前に庭園へ下りる階段を歩いていた。
陽の光が降り注ぎ、気候も穏やかで散歩日和。蕾だった花も綻び、庭園に咲く花は今が見頃と競って顔を上に向けている。
夜には見られない美しい景観を楽しもうと、ジルベールがこうしてリサを昼の庭の散歩に誘ったのだった。
隣を歩くジルベールから横顔に痛いほど視線を感じ、いたたまれなくなったリサは思い切って歩みを止め「なんですか?」と問いかける。
「そんなに見られると気になります」
「悪い。柄にもなく浮かれているらしい」
彼の発言の真意がわからず首を傾げると、ジルベールはリサの右手を取り、無骨な親指で彼女の薬指を撫でる。
「国に帰ったら、本物の石のついたものを贈ろう」
リサの薬指には、昨日彼から貰ったおもちゃの指輪がそのままはめられていた。シルヴィアの部屋でエマにメイクやドレスの着付けをしてもらっている間は、バレないようにこっそりペチコートの中のポケットに隠していた。
「いえ、いりません」
「なぜだ?職人を呼んで名でも紋章でも掘ってもらえばいい。このデザインが気に入っているのなら、同じものを本物の石で作らせよう」
その言葉にも、リサはゆっくりと首を振る。
「私はジルが買ってくれたこの指輪が宝物なんです。これ以上はいりません」
「リサ」
あまりにも愛しい彼女のこめかみにそっとキスを落とす。