おとぎ話の裏側~身代わりメイドと王子の恋~
絵本の通りなら、ローランは従者のフリをしていても実は王子様で、互いに偽りの姿のまま惹かれ合うというとてもロマンチックな展開になるはずだった。
しかし王子様は今リサの隣りにいて、あろうことか侍女である自分は彼からもらった指輪をはめた手を繋いでいる。
一体、自分はどうすべきなのか。
本当は分かっているのに、今のこの幸せな時間を手放すのが惜しい。
こうして彼と触れ合えば触れ合うだけ、リサの胸には幸せと同じだけの罪悪感が降り積もっていく。
それはきっと後から雪崩のようにリサを苦しみの渦に飲み込み苛むだろうと、リサは自分でもはっきりと分かっていた。
それでももう少しだけこの幸せに浸っていたい。
後悔する日が来ようとも、今は彼のそばにいたかった。
その日の午後、リサはシルヴィアに呼ばれ彼女の部屋を訪れていた。
「ねぇリサ。ジルベール様をどう思う?」
侍女姿のシルヴィアに無邪気に問われ、ドキッと鼓動が大きく跳ねた。
いまだにこの入れ替わりがジルベールに知られていることも、昨日こっそりふたりで城を抜け出したことも、彼を好きになってしまったことも話せていない。
城で開かれる昼食会や晩餐会で自分がシルヴィアのフリをしている間、彼女はずっとジルベールを観察しているはずだ。
シルヴィアの目にジルベールがどう映っているのかも気になるが、リサは向けられた質問に自分の感情を入れないよう気を付けながら当たり障りなく答えた。