あなたの声が聞きたくて
第1章
episode I
”ブー、ブー、ブー”
今日もスマホのバイブレーションで目を覚ます。
私の部屋に目覚まし時計はない。
耳が聞こえない私にとって、音が鳴るものは不要だからだ。
そんな中、唯一頼れるものは、ブルブルと震えて時間を教えてくれるバイブレーション機能だけ。
今日は大学に入学して最初の登校日。
春休みが明け、新しい生活が始まる。
寝ぼけながらも身支度を済ませ、リビングへと向かう。
『おはよう』
いつものように母に手話で挨拶をすると、朝食の用意がされたダイニングテーブルに座る。
そして、手を合わせ、心の中で”いただきます”と言ってから、トーストを頬張る。
母が焼いてくれたトーストは、こんがり焼けていて何もつけなくても美味しい。
焼くのが上手なんだなぁと、つくづく思う。
その後も、スクランブルエッグやソーセージなど、目の前に並ぶ朝食を完食し、最後に牛乳を流し込む。
そして再度手を合わせ、心の中で”ごちそうさまでした”と言った。
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