あなたの声が聞きたくて

「あの、これ落としましたよ?」


しかし、彼女はさらに歩みを進めていく。

——こっちは急いでる中わざわざ拾ったのに、無視かよ。


俺は再び走り出し、彼女に追いつくと、肩に触れた。


トントン——


誰かに肩を叩かれた私は、ふと後ろを振り返る。

すると、息を切らした青年がいた。

手には、私が朝カバンに入れたはずのハンカチが握られている。

どうやら、パスケースを取り出した時にカバンから落ちてしまったようだ。

私はハンカチを受け取ると、急いでカバンからノートとペンを取り出した。


”ありがとうございました”


そう急いで書き、それを青年に見せる。

すると彼は私からノートとペンを取り上げ、何かを書き出した。

そして、書き終わると私へ突き返し、走り去って行った。

返されたノートを見ると、”どういたしまして”と書かれていた。


世の中、優しい人もいるんだね—。


心がほっこりしたような気がした。

ペンとノートを確実にカバンにしまい、ハンカチとパスケースがあることを確認して、再びバス停へと歩き始めた。


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