この曇り空は私と似ていた
母はそう言いながら、倉の扉に近づいていく。私もそれについていった。

扉は年季があるのか、いつ壊れてもおかしくないぐらい、さびていてドアノブも回らないほど固かった。

やっとのことでそんな扉を二人で開けると、中では天井から雪のようなほこりがはらはらと舞っていた。

中にあるのは古いものばかりだ。金庫や着物を入れたタンスなど、どれも相当劣化していた。

その中にひとつだけ真新しいものが見える。

それが今から売りに行くというピアノだった。

黒色をベースとしたアップライトピアノは、少し埃を被っていたが、使えるようではあった。

「このピアノはね、清加が小学になる時に買ったの。よく弾いてたわでも……記憶喪失になってからは触らなくなっちゃってということで倉入りしたのよね」

母はそう言いながらピアノのふたを開け、それから近くにあった椅子に座り、軽く鍵盤を押す。

シャープのレの音が倉の中に響く。

その音は何気ない一音なのに、とても心地よさを感じた。

「使えるわね。他の音も試してみるわ」

母はそう言ってにこりと微笑むと、鍵盤をランダムに弾き始めた。

音と音が重なってメロディを奏でていく。

それは聞いたことがあるようなメロディだった。

そう。美華吏が私のために弾いてくれたメロディだ。

母はこのメロディをどこから知ったのだろうか。弾きなれているように母の指はすらすらと動き、鍵盤が弾かれる。
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