この曇り空は私と似ていた
「あなた、いい加減にしてちょうだい!もう、離婚よ!離婚!」

母はそう、耳を塞ぎたくなるほどの怒鳴り声を上げる。

「今、離婚って言った?」

少年は口から出た微かな声でそう言った。母達に聞こえないように気を使っているのだろう。

私の体は震えていた。父が浮気をしていたことは前から知っていたし、いつ離婚してもおかしくはなかった。でもやはりその言葉をいざ耳にすると、震えがやまない。

そして瞳からは雫が今にも、溢れだしそうになっている。

そんな雫を気にしながらも、私は少年の方を向いた。

少年は髪をショートにしていて、瞳は茶色。顔立ちもよく整っている。

「怖い、怖いよ」

私は震えた声でそう言った。

父と離ればなれになるのが怖いのだ。浮気をしてなかった頃はよく、旅行に連れていってくれたからだ。

離ればなれになるということは、もう父とは旅行に行けないこと。それは私にとって寂しいことであった。

「行こう」

少年はそう言うと立ち上がる。

こんな夕方にどこへ行こうとしているのだろうか。迷子になるかもしれないのに。

「どこに?」

「それは秘密だ。行くぞ」
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