この曇り空は私と似ていた
囁くようにそう言って、少年は私の手を引いた。

私はまだやまない震えを抑えながらも立ち上がる。

「こんな時間に?」

「母の怒鳴り声を聞くのももう、うんざりだろ?」

少年は真剣な顔をして言うと、私の手を引いたまま玄関へ行った。

確かに母の怒鳴り声を聞くのには、私もうんざりしている。だからと言って家出をするなんて、度が過ぎていると思う。

とはいえ、行く場所は秘密と言っていたから決まってはいるのだろう。

私達は靴を履き、家を出た。

体はまだ震えたままで足も上手く動かない。そんな私の手を引いて迷いもなく進んでいく少年。

空はすっかり夕暮れで、透き通った茜色に染まっていた。雲は一つもなく、夕陽は眩しいほどに光を放っていて、目を瞑りたくなる。

曲がり角が多い道を少年に手を引かれるまま引きずられるように下っていく。河川敷についたら次は林を抜け、その先にあるのが目指していた場所だった。

そこには二種類の花が一面に咲いていた。淡い青色の小さな花をたくさんつけ、川岸でひっそりと咲いている花。もう一種類は薄いピンク色の花を咲かせている。花色の変化に光の陰影が加わって、ピンクのグラデーションが複雑に交わっていた。

「きれいー」
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