この曇り空は私と似ていた
一瞬足がもつれそうになった。でも今はそんなことで立ち止まってる場合じゃない。

三メートルぐらいある楓の木の林に入っていく。中は薄暗い。早く抜けないと陽が暮れてしまうだろう。

そしたら迷子になるのも当然だ。いや、もうすでに迷子になっているのかもしれない。ただ美華吏に逢いたい。約束を守れなかったことを謝りたい。そしてこんな私でも優しくしてくれたことにありがとうを言いたい。そんな気持ちで夢中に走っていたから、道も周りの景色もあまり覚えていない。

楓の木からは時々、枯れ葉がひらひらと舞い降りてくる。冬が近づいてきているという証拠だ。

私は最初、散ることのできなかった枯れ葉のように置いていかれていた。夢もなければ長所もなく、母に怒られてばかりの最悪の私だった。

そんな私が美華吏と出会い、最初は長い髪に女かと思ったり、心を見透かしてきたような言葉を言ってきたりして、不可解に感じることもあった。

それも今ならわかる。あれは記憶喪失になっていた私を助けてくれようとしていた美華吏の優しさだったんだって。

ただやらされているだけの勉強も運動もみんなの平均近くだった。そんな私に数学を教えてと頼みにきてくれた。

あの時はめんどくさいと思っていたけれど、美華吏にとっては私に記憶を思い出させるためにやってくれたことかもしれない。

私の鞄と上履きと筆箱を盗まれた時は授業中にもかかわらず、見つけ出して途方に暮れていた私のところに持ってきてくれた。そして慰めの意味でピアノであの子守唄を弾いてくれた。
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