この曇り空は私と似ていた
こんな感動の場に私がいていいのだろうか。咄嗟に申し訳なくなった。だけど、逃げるところもないし、ここにいるしかないだろう。

「清加ー。言ってくれたらよかったのに。どうりで宇高っていう名字、聞いたことあるなと思ってた」

母は口を尖らせながら言う。

言えるわけがない。二時間前に思い出してここまで走っていたのだから。

「だってー」

「まぁ仕方ないわよね。記憶喪失で忘れてしまっていたこともあるかもしれないし」

いや、あった。私は記憶喪失のせいで美華吏のことを忘れていた。怖がりな優等生の私を支えてくれていた大切な家族の一人、だったのに。

「今日はうちで泊まっていきなさい。父には私から言っておくわ」

そう言って母は林の方へ戻ろうとする。

「それが実は……」

美華吏はそう言って母に父が流行り病で亡くなったことを伝えた。

帰ったら夜ご飯に何を作ろうか。肌寒いからシチューとかどうだろうか。いや、もしくは美華吏の大好物の方が喜ぶのではないか。てか何を考えてるんだ。気をしっかりもて私。血が繋がってたのだから恥ずかしくなるな。

私は首をぶるぶると振って気を取り直す。

確か美華吏の大好物は私と同じ唐揚げ。さっぱり柔らかな鶏ささみで作っていて、脂濃さとレモン汁の甘酸っぱさが上手く絡み合っている唐揚げだ。
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