この曇り空は私と似ていた
いや、なんと言われたかはわかる。それなのに私はその言葉の意味が一瞬わからなかった。

私は段差の途中で立ち止まって階段の手すりと足元を見つめながら考える。けれど、思いもよらない言葉に頭は真っ白になってしまった。

聞き間違いだよね?

そう思いながら彼の方を振り替える。

学ランににあわないセミロングの髪をさらさらとなびかせながら、彼は階段を何事もなかったかのように下りていた。

嘘でしょ……。

私の頭の中からは驚きの言葉ばかりが浮かび上がる。

まるで私の心を見透かされたような、そんな言葉だった。

彼は最近この学校に来たばかりの転校生だった。確か名前は……美華吏。端からみればどこからどう見ても女。でも、男。

そんな美華吏はすでにクラスの人気者だ。転校生だからそんなものなのかもしれない。だけど彼の場合はそれ以上の理由がある。

それは繊細で思いやりの心の持ち主であること。

たとえば、クラスの集配物を職員室に取りに行ってみんなに配ったり、係りの人が仕事を忘れていたら彼がいつの間にかやっててくれたり、授業の終わりには黒板にたくさん書かれた字をこれほどまでかときれいに消してくれたりなどだ。
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